TANOMOSHIは地域が主体的に未来を見据える取り組みです。地域の事業者が立ち上がる必要性は、どこにありますか。
地方では狭いエリア間で対立やライバル意識があります。遠方にいる同じ考えの人たちの方が仲良くできるぐらいです。しかし、本来は隣人の成功を喜べるようにならないといけない。
例えば、ある地域が何らかの理由で注目され、都会や海外の資本が入って開発されるとします。大資本は注目度が下がったら投資を引き上げるもの。その時、逃げずに根を張る地元の人がいないと、いったん良くなった地域が枯れ果てる結果になってしまいます。
だから、地域経済循環を成し遂げたい。能登は過疎地で商売が成り立ちにくいからこそ、守られてきたものが残っています。人口が減る中、それらを次代につなぐには、地域の人が市場を広く捉えるためのトランスフォーメーションを進める必要があるのです。
奥能登のTANOMOSHIでは興能信用金庫と連携しました。
TANOMOSHI立ち上げのきっかけをくれた興能信用金庫の田代克弘理事長は、外から稼ぐ力を養うことを「奥能登に、まちづくり会社をつくってほしい」という言葉で表現しました。私は上記の問題意識を持っていますから「七尾の会社がやるのではなく、奥能登の人が稼ぐ形を整えよう」と逆に提案しました。
もともと、資金的な支援をできる信金が非資金的な伴走機能も果たせたら、最強の中間支援組織になれると考えていました。信金は地元で投資を呼び起こしたいはずで、信金がコーディネーターになってほしいということです。
結果として、信金の事業として継続するには至りませんでした。そこで、株式会社御祓川(以下、御祓川)がTANOMOSHIの後継サービスとして、能登で経営力向上委員会をやることになったので、そちらも頑張ります。
奥能登の参加者は自らを振り返り、やりたいことを口にして、一方で他の参加者は自らが協力できることを話し合い、それぞれがリソースを出し合いました。互いに相手のことを「自分事」と捉え、温かくて気持ちの良いコミュニティーになったと思います。
メンバーは企業規模、出身者か移住者か、業種など、さまざまな差異があり、たくさんの伴走支援が要る事業者も、要らない事業者もいます。奥能登のTANOMOSHIでは試行錯誤の末、支援の「型」が幾つかできました。今後はそれを積み上げていきたいです。
難しかったこと、やり残したことは何ですか。
本来の頼母子講のように、オンライン上に、毎月お金を集め、それを特定のメンバーに分配するまでが見える仕組みとして「みんなの共通財布」のようなものを構築したかったですね。実際に持ち寄る形も想定しましたが、コロナ禍でオンラインが多く、実現はしませんでした。
また、取り組みを進める中で不安に感じていたのは、皆さんに多くの時間を割いてもらい過ぎじゃないか、それだけの成果を出せているか、という点でした。
この点、誰にも、大切だと分かっているのに、つい後回しにしてしまう事柄があると思います。それをTANOMOSHIでの議論を通じて「なあなあ」にせず、外部の目も踏まえて考えることになるため、TANOMOSHIに充てる時間を確保するは「自社の経営の時間を取ること」と捉え、前向きな声を聞くことができました。
改善・修正を重ねたTANOMOSHI。御祓川にとって、どんな意味がありましたか。
御祓川のビジョンは「小さな世界都市の実現」です。規模は小さいものの世界に通用する商品・サービス・哲学を持っている事業者がいて、世界観を実現できる場所という意味です。
必要なのは自然資源と地域経済、地域人材の循環。このうち、地方は人材が乏しいため、人を内部で育てるなり、外部から入れるなりして、事業が地域の資源に付加価値を足し、再投資されるようにする。それによってまち・みせ・ひとの関係性が正常化します。
そもそも地方にある小さな事業体は、必ずしも大きく儲けなければならないわけではありません。経営者が成長して一定数のファンが育てば、それだけで持続可能です。ファンを獲得するためには、たゆまぬ努力が必要ですが、一つ一つは小さくても、地域外からも支持されている質の高い事業体が集まっていることで、大きなインパクトになります。それこそ、小さな世界都市。TANOMOSHIでは、御祓川のビジョンが達成に向かっているのを、ロジックモデルを介して確かめられた意義が大きかったと感じています。
他地域でTANOMOSHIを展開する場合、どんな展開が考えられますか。
TANOMOSHIは基本的に地域に根差した経営者のネットワークです。そう考えると、同じ位置づけの既存団体が存在しそうですが、実は各社の経営について語る場は、なかなかない。この点でTANOMOSHIは珍しい仕組みであり、いろんな展開、応用ができると思います。
タイプ | 代表的な組織団体例 |
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地域経済系 | 商工会議所、商工会、各種業界団体 |
社会奉仕系 | ロータリークラブ、ライオンズクラブ、青年会議所 |
インプットな学び(あり方)系 | 中小企業家同友会、倫理法人会 |
アクセラレーション系 | ビジネスコンテストや起業塾など |
学び支え合う系 | ローカルビジネスラボ『TANOMOSHI』 |
奥能登は2市2町が対象でしたが、もっと近しい相手同士でも良いし、やる気ある若者が一定数そろう地域でもやってみてほしいと思います。
既にある経営者コミュニティーにTANOMOSHIのエッセンスを応用するのも面白いですね。例えば、商店街は全員が経営者。みんなで腹を割って課題を話し合い、個々の店がブランディングを磨きに磨く。そんな店が並んでいる商店街は魅力的でしょう。
どうしても商店主は「自分の店のことまで口を出してくれるな」みたいな面があり、振興費で商店街としてイベントをやるような方向に進みがち。でも、今は店単体の魅力に客が付く時代です。その店ごとの発信力を高め、どうやって商店街全体に昇華させるかを議論すべきでしょう。
TANOMOSHIの将来像を教えてください。
地域で起業する際は、誰にあいさつするとか、誰に聞けば良いとか、ローカルな情報や人脈が大切です。この辺りはビジネススクールで得られる知識では賄えませんし、移住してきた人が驚く点でもあります。
そこで、TANOMOSHIのネットワーク内の人たちが、そのエリアで起業する人を育てる動きをしても面白いと思います。地域では「あの人からの紹介で来た」というのが重要。それらをつなぐネットワークにTANOMOSHIがなれれば良いですね。
これをよく「生態系」と言い表しています。中央集権的ではなく、各エリアで小さいネットワークが複数あり、緩やかに結び付いて影響し合い、つながっている。特定の人が「エイヤッ」と頑張らなくても、それぞれが自走していく感じです。
そういう意味で、1つ1つのTANOMOSHIが小さな世界都市だと言えるかも知れません。他の地域と共鳴し合い、それらがつながっていくイメージですが、なかなか言葉にしにくい。このTANOMOSHIを通じて「小さな世界都市」が共通語になり、それぞれのローカルから日本が良くなるのが理想ですね。