課題先進地「奥能登」で作り上げた手法を全国へ届けたい

株式会社御祓川
コーディネーター佐久 志歩

TANOMOSHI事務局として企画・運営担当。当初は毎月参加メンバー全員が集う場(月次定例会)を通じてのコミュニティ醸成を想定していたが、コロナ禍にあって8割以上をオンラインで行うことに。そのような中で、どうやって質の高いコミュニティをつくりあげたのか、運営側の工夫や姿勢について伺いました。

奥能登でのTANOMOSHIはコロナ禍のスタートでした。

月次定例会は8割以上がオンラインで実施しました。活動に制約があった半面、コロナ禍だからこそ各事業者がオンライン対応を急速に進めていたことが幸いし、短い時間を利用してミーティングを開く環境が構築できました。

また、私は東京と能登の2拠点居住者ですが、TANOMOSHIの立ち上げや運営の約半分を東京からリモートで行いました。この経験は、他の地域でTANOMOSHIを展開するに当たり、1つの実績と言えます。例えば、今後他の地域でTANOMOSHIを実施する際に、スタート時点で全ての役割を地域の内部人材で賄えなくても、私が遠隔で立ち上げのサポートとして十分に貢献できることが実証できたからです。

遠隔からの運営でできることは。

私は能登の出身でも能登居住者でもなく、TANOMOSHIが始まった当初は株式会社御祓川(以下、御祓川)で長く働いていたわけでもありませんでした。そんな外部人材としてのポジションで、最も貢献できる関わり方はなんだろうと常に考えて運営にあたっていました。

経営者の成長だけでなく、地域の未来を形づくる場でもあるTANOMOSHIは、あくまで地域の人たち自身が物事を決める。そこで、私は彼ら自身が必要なものを引き出す役割だと捉えた上で、月次定例会の場を回したり、書いていくだけで頭の中が整理でき・未来についても考えることができる現状把握のためのフォーマットを作ったりしました。

ゼロから始めたTANOMOSHI。事務局としての役割、成果は。

御祓川代表の森山奈美は能登の経営者でもあります。奥能登のTANOMOSHIでは、奥能登の経営者コミュニティができましたが、その裏には経営者・森山の存在があったと思います。私はTANOMOSHIに関わるメンバーが前に進めるように先立って道を整え、進んだ後には掃除するなど、推進の環境づくりに徹しました。

5月に公開予定ですが、今は他の地域でTANOMOSHIを始めたい方に向けたコンテンツを作っています。TANOMOSHIとは何かに加え、ビジョンやミッション、ルール、参加者割などをまとめ、これを「虎の巻」として無料公開することで、他の地域でTANOMOSHIを始めた人たちの初めの一歩への後押しとなればと思っています。

さらに、実際に自分の地域や仲間とTANOMOSHIを立ち上げるという方には、御祓川の能登における経験・ノウハウを提供すべく、どのように人を巻き込み、どうやって資金を調達していくかを盛り込んだ企画・運営のサポートメニューも用意しています。ここには、能登のTANOMOSHI期間中に活用した各種フォーマットも含まれており、すぐにでもTANOMOSHIを開催できる状態で待っています。

運営で工夫したことを教えてください。

対ラボパートナー(地元事業者)

事前にプログラムが決まったリモートが主体でした。しかし、2年間に4回ほどリアルに集まると雑談があり、その大切さを学びました。そこで、リモートでもプログラムと関係の薄い会話も取り入れ、柔らかな空気感をつくりました。

対コーディネーター(興能信金の担当職員)

興能信用金庫は企業を財務から診ることができる強みがあるので、どうやって得意分野を生かした伴走支援を具体化するかを考えました。参加者それぞれの「出る幕」は、運営側が意識して設けるべきでしょう。

TANOMOSHIを通じて地域の事業者が成長することは、中長期では信金への融資案件が増えるというロジックモデルを共有していましたが、TANOMOSHIの実施期間(約2年)ではすぐに融資に結びつかず、金庫としてのわかりやすい利益を生まないため、信金職員が大々的に動きにくい面もあったと思います。これを学びとして、他の地域ではラボパートナーの選定条件の一つとして、融資案件につながりそうな事業者をTANOMOSHIに選ぶという順序も有り得るでしょう。

また、当初は目的や役割のすり合わせも不足していました。そのため、信金コーディネーターと御祓川の定期ミーティングを開き、伴走の方向性を話し合いました。2年目からは、御祓川とラボパートナーの直接のやりとりを極力減らし、ラボパートナーとの直接コミュニケーションを信金が担い、このモデルが地域で自走できるように御祓川は後方支援する形に改めました。

他の地域でのTANOMOSHIに、御祓川はどう関わるのでしょうか。

TANOMOSHIの主体はその地域の人ですから、中心は地域の中間支援団体または事業者です。ただ、ゼロから始めるのは時間がかかるため、一足飛びに進められるマニュアルを用意しています。それでも汲み取れないソフト面は、御祓川が有料で伴走支援しながら一緒に作り上げていきます。

御祓川による伴走では、【立ち上げ時】は地域の目指す姿、どんな人や事業所に育ってほしいか、という点からその地域のTANOMOSHIの目的やコンセプトの設定を手伝います。

【資金調達】は奥能登のような休眠預金に加え、信用金庫の人材育成費など、座組みの中にいる相手によって適した方法を共に検討したいと思います。

【運営面】ではフォーマットを活用して参加者の脳内を整理するのをサポートします。TANOMOSHIによるインパクトの評価もできます。外部評価は公正さが高く、第三者目線の意見は地域に発信しやいため、地域に定期的に成果を伝え、さらに応援してもらえる循環を生みたいですね。

事務局の連携相手として望ましい条件は。

奥能登のTANOMOSHIでは、長年その地域で信金が培ってきた地元事業者とのネットワークや信頼関係を活用させてもらうことで、一気に立ち上げることを狙っていました。信金は地域の事業者の存続が自らの存続につながるので、信金もTANOMOSHIの成功によって価値やメリットが生まれることから、連携が成立しました。

同様に、地域で活動し、その活動の先に事業者支援がある組織なら、パートナーは信金に限りません。しかし、組織の外から組織を動かすのは難しい。組織の中にいて、TANOMOSHIと組織のメリットを結び付けてくれる人がいると助かります。

元来、保守的な地域でこそTANOMOSHIが必要なはず。そうした地域は変革が難しいからこそ、組織内の人が大事なのです。奥能登も難しい地域の1つで、そこで御祓川が得た実体験は、他の地域でのサポートに役立つと思います。

TANOMOSHIを持続可能にする上で心掛けることは何でしょう。

能登でのTANOMOSHIはゼロから始めたので、多くのリソースを割きました。しかし、おかげで仕組みやフォーマットが整ったため、他の地域はゼロベースではありません。また、奥能登ではプロボノ人材や、私のように能登を第2のふるさとと捉えている人材に副業・兼業などで部分的に協力を求め、人件費を抑える流れを築きました。

原資は、その地域におけるTANOMOSHIの効果を誰が享受するかを洗い出し、誰のコストにすべきかを考えれば、その地域の事情に応じた新たな形が作れると思います。奥能登でも、助成期間のうちに、どう持続的なモデルを作れるかを考えていました。

他地域展開に向けて

能登でのTANOMOSHIを通じて、現地にインパクトが生まれただけでなく、「型」とそれを再現するための「マニュアル」が出来上がりました。今後は、この手法を全国の他の地域に届けたいと思っています。御祓川がそれをお手伝いしますので、ご関心ある方はぜひお声がけください。

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