当初からTANOMOSHIに関心を持っているのは、なぜですか。
東日本大震災以降、八戸エリアや東北のコミュニティーの根本にあるエコシステムを耕し、各地域のリーダーがつながって地域を支える動きを育ててきました。その中では関係人口の増加や事業者支援にも取り組みますが、個社では限界があるんです。
1社単独で何とかしようとしたり、1社に対してのみ何かをしたり、そんな手法では中間支援団体が必死になっても難しい局面が出てきます。そこへの解決策の1つが「コレクティブインパクト」という概念で、TANOMOSHIはその考えに合致すると見ていました。
株式会社御祓川(以下、御祓川)の森山さんは真剣に地域の持続性を守ろうとしている方です。私も八戸で地域エコシステムの持続発展モデルの実践や研究開発をしている手前、TANOMOSHIが効果的な打ち手ならば、必要な箇所を取り入れたかったのです。
コレクティブとは、どんな状況でしょうか。
「ちょうど良さ」が連鎖している状況です。メンバー各自が役割を持ち、起点になる人物が出てきて、メンバーにとって「ちょうど良い」状態を繰り返す。誰かが頼るだけだったり、利用するだけだったりすると分断が生じます。
中間支援団体として連鎖を促す役割を担いたいのですが、心掛けたいのは中間支援団体が頑張りすぎないことです。エコシステムという見えないものを耕していると、工数が多くて時間軸が長く、しかし、それを行う中間支援側への支援は少ない。心が折れてしまうコーディネーターもいます。
今回のTANOMOSHIはインパクトを基準に休眠預金を活用した点が優れていました。そもそも、中間支援団体自身が持続できなければ仕方ない。森山さんからは、奥能登に新たに中間支援団体をつくるのは至難で、だからチームで動き、コレクティブさを追求する「TANOMOSHI」を作ったと聞きました。
TANOMOSHIの評価をお願いします。
うまく機能した箇所
中間支援団体なしでも企業同士が結び付いたことです。とは言え、背景には御祓川の存在があったと思います。絵本「スイミー」のように、真ん中で色が異なり・起点となる存在として御祓川がいたから、周囲が動いたのでしょう。ただ、前述の通り、御祓川が頑張りすぎないで、メンバーそれぞれが自発的に動く構造を模索しなければなりませんね。
初期は中間支援団体が地域金融機関と組んだことに関心を持ちました。カネは信金、ヒトは中間支援団体という分担ができると思ったからです。しかし、実際は適切なメンバーが関わるため、守秘義務やお金を出し合うなどの枠組みをTANOMOSHIとして導入したことが良かったのだと受け止めています。
構造的な課題
やはり課題はお金の回り方です。解決策は場をつくる側がお金を回す側になること。例えば、休眠預金の資金分配団体になれば、メンバー選考時に資金の出し手の目線で見て面的な広がりを持たせやすくなります。また、助成に慣れたメンバーはフリーライダー(タダ乗り)になりがちです。例えばファンドのような形で投資があり、資金の循環が生まれるのが望ましいですね。
他地域でもTANOMOSHIを導入できるでしょうか。
中間支援団体から見たTANOMOSHIの意義は、いったんモデルが作られたこと。ミーティング頻度や時間も含め、プログラムの型ができました。それぞれの地域によって事情は異なるので、TANOMOSHIのフォーマットを転用できる箇所は生かし、そうでない箇所も実情に応じてアレンジするのが効果的かも知れません。
サポートチームをつくる上でTANOMOSHIは有用です。「壁打ち」と言われる複数人でディスカッションするのはサポート側も有り難いし、揉まれた結果としてのアクションが出てくる。そういう「目線を上げられるチーム」があるのは、応援する側、される側、地域にとって良いと思います。
TANOMOSHIではサポートチームに兼業者や都市部のプロボノ人材が入っており、御祓川が関わってきた様々なリソースが可視化されたと言えます。私たちの八戸での活動も、さらに事業性に注目するようになると、TANOMOSHIのようなモデルが欠かせないでしょう。
TANOMOSHI推進に必要なこととは。
弊社も八戸エリアで、行政、事業者、大学、金融機関、など多様なステークホルダーと長い時間軸で信頼を積み重ねて事業を展開しています。しかし、どの組織と組むかというより、連携・共創していく起点となる人の在り方が重要だと考えます。地域の中にいて面的な広がりをつくろうとしている人、つまり個としてどう協力し合えるかを考えられる人たちがいて、そのキーパーソンを起点に各組織もコレクティブに変容して面としてつながっていくことがTANOMOSHIの推進にとって重要でしょうね。
これからの時代、企業は他社からシェアを奪うのではなく、人を育てて市場を創る姿勢が大切です。そうした考えの行き着く先がTANOMOSHI。ただ、先を進み過ぎると理解されません。TANOMOSHIは非常に先端を走っている取り組みだと感じます。マーケットが追い付くのを待つか、マーケットに合わせて市場を創るか。試行錯誤を繰り返しながら、各地のニーズに応じた場づくりをしていくことがTANOMOSHIの普及につながると思います。追記:私たちバリューシフトもTANOMOSHIのエッセンスをとりいれさせていただきながら、八戸エリアでのコレクティブインパクトを創造していきます。